Dr.伊藤のひとりごと

新人時代の当直

今日は新人医師の当直(宿直)について書いてみる。
ぼくが新人医師の頃は医師国家試験に合格してから、その年の4月にどこかの医局に入いることがほとんどであった。しかし、最近はその医局制度が新人医師の教育としてあまりよくないということで、昔のインターン制度に近い形に戻ろうとしている。そのため卒業後医師国家試験に合格してからは一般の総合病院などの自分の希望する教育病院にいく卒業生も多くなった。逆に今までと異なり大学病院を希望する研修医は少なくなくなっているようだ。

さて、その新人医師は大体8月ごろになればひとり立ちして夜間や休日の病院の当直や休日勤務をすることになる。ある先生は冗談で(ある意味では本気で?)、その時期7-8月頃の大学病院の夜間の救急は無医村状態(新人医師が当直をするので患者さんにとって危険という意味である)と言っていた。そんなことを言うのであれば新人医師には卒後1年ぐらいしてから当直をさせるべきであると思うのであるが、いかがなものであろう。一般に当直業務は入院患者さんの処置や点滴、夜の回診、病棟の救急対応、および救急外来の対応である。忙しいときはほとんど眠れない。しかも次の日は通常勤務である。手当ては当時で一日8000円ぐらいであった。時給500円というところの安手当てである。そのため先輩医師は当直をやりたがらない。だから大学病院の当直は若い医者に順番が回ってきた。

新人医師にはいずれ当直の順番が必ずいつかまわってくるわけで、その当直の際に変な患者さんがきたらどうしようとか、何か問題が起きたらどうしようなどと本気で心配したものである。昔の大学病院では、先輩の先生の誰か数人は仕事が終わって研究室でお酒を飲みながら手術の反省や、患者さんのことを熱く語りながら残っていた。そのため、何か困ったことがあれば、研究室や医局に行けば快く先輩から指示や指導をもらえた。最近は研究や論文を書いているまじめな先生?以外は仕事が終わると早々に帰る先生が多くなったようである。つまり彼女や彼氏または家庭を重視する先生が増えたということである。

新人医師にとっての当直は本当に恐怖であった。一応当直でよく遭遇する病気についての予習はしているのではあるが、実際はそんなに簡単なものばかりではなかった。そのため、僕らは友達と二人で当直をした。患者さんが来れば、まず二人で診察して、途中でカンニングというわけではないが、一人が抜け出して参考書なる医学書を見てメモして帰ってきたりした。怪我をしてやってきて縫合処置をしなければならない人が、新人医師に運悪くあたれば、やはり時には悲劇が起こった。その患者さんにはこの場を借りて謝りたい。今考えると日本の医学の教育制度の問題であり、新人医師が悪かったわけではない。

さて、最近は年をとったためか、図太くなったのか分らないが、当直をしてもそれほどどきどきすることも少なくなった。あの新人時代の当直の恐怖や不安も慣れによって次第に薄れていき、ましてや感動することも少なくなってきた。新人時代の当直の話を書いたら、急にあの時一緒に当直した同期の連中と懐かしき新人時代の昔話をしたくなった。久しぶりに旧友に電話でもかけてみようか。それでは、今回のひとり言はこれぐらいにしておこう。