Dr.伊藤のひとりごと

ぼく、死んじゃうの。

新人医師になって早6ヶ月。朝の通学中にダンプの後輪で轢かれたという10歳の小学生がぼくの病院に搬送されてきた。子どものおなかにはタイヤの跡があり、本人はかなり苦しそうであった。当時、救命救急部なるものは当院にはなく、どの科が担当するかが分らないため、とにかく子どもの外傷ということでぼくのところが担当になった。おなかのレントゲンをとると重度の骨盤骨折であり、どんどん後腹膜への出血が進行し、子どもは意識混濁のショック状態になった。緊急輸血をしながら、ほかの検査を進め、尿道断裂と直腸破裂が新たに診断された。整形外科や泌尿器科の医者が呼ばれ、合同チームが結成された。両親が到着し説明がなされ、緊急手術の話がされた。両親は茫然とした状態で話を聞き、手術承諾がなされこの子はすぐに手術室に運ばれた。子どもの命は大変危険な状態であった。手術は人工肛門造設術、膀胱瘻造設術が行われた。骨盤骨折は後腹膜のスペースが満杯になって出血が止まるのを待つしかなく、開腹手術をすると背中のほうの後腹膜には血腫(血の塊)で満杯になっていた。おちんちんと膀胱の間の尿道は完全に断裂されていたが、泌尿器医師がおちんちんから膀胱に向けて尿道カテーテルを通じさせた。手術後の管理は外科が担当となった。危険な状態が3、4日続いた。子どもは意識を取り戻し、自分の置かれている状況を理解した。